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zoom RSS レーベンストラウムではなく、レーベンスラウムです

<<   作成日時 : 2010/11/09 08:20   >>

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自民党の安倍晋三元首相が、ワシントンのシンクタンク・ハドソン研究所で10月15日にかなり強い口調を用いて中国の軍拡というか、覇権主義を批判した。その際に安倍元首相は「1980年代から、中国の軍事戦略は『戦略的フロンティア』という考え方に基礎を置いてきました。(中略)中国の経済が成長を続ける限り、その勢力範囲は拡大を続けるとするものです。これをドイツの概念『レーベンストラウム』(筆者注)と結びつけて考える人もいるかもしれません」と述べた。

(筆者注)安倍元首相は発言では本当にレーベンス「ト」ラウムと発言したのかもしれないが、歴史・地政学用語としてはレーベンスラウムである。

この発言について、AFP通信社の記者は「レーベンストラウム(生存圏)とは、ドイツは、成長するためのもっと多くの土地、特に東のスラブの土地を持つにふさわしいと考えていたアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)の思想におけるひとつの主要な信条。」との注釈を加えたのだが、この開設解説は100%誤りというわけではないにせよ、一応古典地政学徒(もどき)の私としては「それはだれかが間違っていますよ」とコメントしたくなる。なお、英文の講演原稿では正しく「レーベンスラウム」と記されている。

AFP通信社の記者は「我々はフランス人だから、ドイツ語なんて知らないよ」とか言ってけむに巻くかもしれないが、ここは大陸流地政学の重要なタームなので、今更ながらではあるものの、訂正を試みることにする。更にこの記者は「レーベンストラウム(生存圏)とは、ドイツは、成長するためのもっと多くの土地、特に東のスラブの土地を持つにふさわしいと考えていたアドルフ・ヒトラーの思想におけるひとつの主要な信条。」という注釈を付けている。

しかしこの用語を初めて使ったのはヒトラーの『我が闘争』などのナチ党の文献(というかアジビラ)ではなく、疑似科学と批判されてはいるものの、一応当時のドイツ政治学の大物(例えばカール・シュミット)も投稿していた『地政学雑誌』で自然に用いられていたものである。

ここからは『地政学入門』(曽村保信著、中公新書、1984年初版)を要約するのだが、どうも戦後にアメリカの学者が『地政学雑誌』をあちこちひっくり回してレーベンスラウムの定義と初出を探ろうとしたのだが、漠然としすぎていて何も得るものがなかった、とこぼしたという。何というか、自然国境と民族境界線が混然一体となっている中部・東部ヨーロッパの平原地帯の、その広がりをもって、"raum"としたドイツの民族的願望が知らずのうちにドイツ地理学・政治学に紛れ込んだというのが実態のようである(実は要約していて、自分でもどうも消化し切れていないな、という不全感が漂うのが実際のところである)。

しかしこの用語を初めて使ったのはヒトラーの『我が闘争』などのナチ党の文献(というかアジビラ)ではなく、疑似科学と批判されてはいるものの、一応当時のドイツ政治学の大物(例えばカール・シュミット)も投稿していた『地政学雑誌』で自然に用いられていたものである。

まぁハウスホーファーに代表される地政学研究所の面々がヒトラー率いるナチ党と手を結んで、ドイツをヨーロッパ唯一の大国にしたいという願望があったのも、推測ではあるが、だいたい正しいようなので、レーベンスラウム=ヒトラーの信条も全く間違えているわけではないようである。

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ただ地政学研究所の面々とナチ党との関係は蜜月のものかというとそうではなく、前者が後に組む相手を間違えたと後悔しているようであり、実際に第二次世界大戦中に息子のアルブレヒトがヒトラー暗殺未遂の廉で処刑されているようであり、ドイツ流地政学=ヒトラーの信条というのは完全な正解とは言いがたい。

そして本題に戻ると、本来、現在の中華人民共和国領は、原則として清帝国の領土を継承したもの(いくつか他国に譲渡しているがそれはここでは触れない)で、本来は中国は大陸国家(というか遊牧騎馬民族国家)であるが、昨今の国際情勢を検討するに当たって、海洋に進出した方が好都合という(海には12海里の領海と200海里のEEZが保証されているに過ぎない)ことで、東と南に広がる海をフロンティアとして中国の国力増大に資するという意味で、安倍元首相は中国の海軍軍拡を「レーベンスラウム」と表現したのかもしれない。

大陸系地政学は第二次世界大戦のドイツの敗戦で消滅したかに見えたが、アメリカ・イギリスの海洋系戦略学に応用されたり、名前こそ忌み嫌われたものの、当時のソ聯でも研究されたことは間違いない。そこでソ聯はゴルシコフ提督の一連の書籍をイデオローグとして、キューバ危機の敗戦(実態は引き分けに近いものだったようだ)もふまえて、ランドパワー+シーパワーという危険な道を歩んで、アフガニスタン侵攻で国力を消耗して国家消滅+継承国家の領土縮小という敗北の道を歩んだ。中国の海軍軍拡とスプラトリー諸島の島争いが中国の国力劣化の道を歩まないか(とりあえず世銀やIMFは中国の経済成長を年10%以上と発表しているが、ジャーナリストの宮崎正弘はどうも5%以下ではないかと推測している)という例の「ランドパワーとシーパワーは両立し得ない」という地政学の禁忌に触れる行動を起こしているので、楽しみといえば楽しみだし、その混乱が日本にも波及しないかどうかを考えると人ごとではいられない。

最後に地政学とは無縁の話であるが、中国では大学生の数が年々増えているというが、どうもこれは一種の失業対策で、彼らが(確か)4年の修学期間を終えると、大学卒にふさわしい職の不足がどうしても目に付くらしい。日本でも似た傾向がないことはないが、それでも就職希望者の8割、全卒業者の6割が一応正社員として就職している(今年4月のデータ)ので、中国ほどひどい目に遭うことはないであろう。



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