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zoom RSS 「戦略」について・再考

<<   作成日時 : 2005/06/12 06:23   >>

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 この記事は、奥山真司氏のブログ『地政学を英国で学ぶ』5月29日投稿「「戦略」について」へのトラックバックである。
 私はこの戦略ブログで一度、「「戦略」という単語について」という記事を投稿した。その記事の中で、「戦略」という単語の定義があまりに拡散しすぎていることを嘆いた。

しかし、最近耳にした甚だしき"strategy"の使われ方は、「TOEICの問題を解くストラテジー〜」というのであるが、これには聞いていて驚いてしまった。こんなところにまで「戦略」という用語が乱用されているのか


 その広がりすぎた「戦略」という用語の定義を進めているのは、一例として、以下の定義を挙げればよいであろう。このような定義が大手を振って表に出るのは、私が以前嘆いたようなとんでもない事項に「〜戦略」と名付け、それに対しても定義を広げたが故の問題と無関係ではあるまい。

:「「与えられた問題を解決するのにどうすればいいかというその答である」、あるいは「問題解決のノウハウがすなわち戦略である」、という考え方はいささか狭すぎる。むしろ、問題を設定することからその答を見出すことまでの、その全体」(注1)


という、戦略の定義というよりは、人知の及ぶところすべてに当てはまる定義ではないか、と疑わしきものもある。これは、戦略という単語をこのように定義した竹内靖雄が政治・軍事系の学者ではなく、経済学者であることと関係があるかもしれない。

 ところが、バリバリの地政学の学徒である奥山氏は記事の中で、

>日本で「戦略」というと、なぜか軍事的な匂いがプンプンします。

という考えを示した。
 これは、「戦略」という単語(もちろん西洋語の"strategy"系統の単語)の語源が、古代ギリシャ語の"strategia(στρατηγημα)"で、もとは「将軍の技術("the art of generalship")」(注2)であることから考えると、むしろその方がまっとうな定義ではないか。
 では奥山氏は「戦略」という単語をどのように定義しているかというと、

>「軍事が政治・政策に及ぼす影響を考慮して、その対策を練ること」

と定義している。これでは後述する戦略学のヒエラルキーにおける"Grand Strategy"と"Military Strategy"の中間に位置するか、Military Strategyの定義になるのではないか。

 戦略学者がひしめいている英米に留学している奥山氏に、日本人による戦略の定義を提示するのも釈迦に説法のようなものだろうが、以下の2つを示しておく。これらを見る限りでは、全く軍事的な匂いはただよってすら来ない。ただし、あくまでもこれは一例で、これらの定義が日本人の代表的なものである保証はない。

「一国がその生存および繁栄の条件を確保するために、利用可能な自国および与国のすべての政治的・経済的・心理的・軍事的その他の諸力を動員して、環境に適応する科学と技術」(注3)



「戦略が、自己の定めた目標をその持てる力によって達成するための合理的な手段選択(を意味している)」(注4)


伊藤憲一、中西寛はともに国際政治学者である。ゆえに「戦略」の定義も「国家戦略("Grand Strategy")」寄りの立場から定義したものである。

 伊藤は『国家と戦略』の中で、「戦略(あるいは"strategy")」という単語が、日英米の国語辞典の中で、あまりに軍事寄りなのを批判している(注5)。奥山の定義も軍事戦略の定義と国家戦略の定義のどちらの立場に立っているのかを示さなければ、同様の批判を免れないのではないか。

 戦略の定義についての批判の後は、戦略学のヒエラルキーについての件であるが、奥山氏によるとそれを以下のように定義した。

Vision(ビジョン)

Policy(ポリシー/政策)

Grand Strategy(グランドストラテジー/大戦略?)

Military Strategy(ミリタリーストラテジー/軍事戦略)

Operation(オペレーション/作戦)

Tactics(タクティクス/戦術)

 奥山は上の一列に整理したが、私は下記のように提唱したい。

Vision(ビジョン)

Grand Strategy(グランドストラテジー/国家戦略または大戦略)
↓                                       ↓
【軍事方面】                            【外交・政治方面】(注6)
Military Strategy(ミリタリーストラテジー/軍事戦略)Policy(ポリシー/政策)
↓                                           ↓
Operation(オペレーション/作戦)Foreign Policy(フォーリンポリシー/対外政策)
↓                                           ↓
Tactics(タクティクス/戦術)        Diplomacy(ディプロマシー/交渉)

 戦略論のバイブルを著したクラウゼヴィッツによる有名な一節に、「戦争は他の手段を持ってする政策の継続(注7)」という言葉があり、軍事と外交を分けるのはどうかと思うが、"Policy(ポリシー/政策)"は戦略を導き出すものではなく、国家戦略によって導き出されるものではないかという感じが否めないので、上記のように二列構えのヒエラルキーを構築した次第である。

 最後は日本の軍事趣味というか研究がハード志向に偏っていることについてであるが、これについては以下のようなことが言えるのではないか。
 日本の一般大学では安全保障学の講座・専攻が極めて少なく、それ以上に軍事学の講座が存在しない。ということは、マスメディアや研究所を含めてそのような学問に対する需要が日本には存在しないこと(不必要という意味ではなく)。日本の軍事研究は完全に趣味の一分野と認識されているので、日本人の軍事趣味が政策科学志向にならず、ハード研究で満足する一因ではないか。政策科学としての軍事研究は、戦前は軍部による「統帥権干犯」の問題で、戦後は平和教育による軍事研究の空白で、第一次大戦後の欧州に見られるような、(軍歴はあるが)シビリアンの学者による軍事研究の伝統が存在しないのが実情である。
 蛇足だが、防衛大学校の専攻も、近年になって文系の専攻ができたが、それまではまるで工学部の単科大学といった趣であったのも、日本の軍事研究がハード志向になっていることと関係あるかもしれない。軍事評論家といわれる日本の軍事研究を担当している層が、主に退役自衛官からなっているので、そう推測をしてもいいのではないかと思う。
 ただ日本の新進の安全保障の研究者でも、英国系の哲学的な軍事教育を評価する者も現れている(注8)。

 日本で大した研究活動もせずに妄想にふけっている者と、英国で地政学の学者について修士論文を書き上げる学徒とでは、脳の活動度が全く違っているのだが、私にできる範囲で反論を試みてみた。評価は読者にゆだねたい。

(注1)竹内靖雄 『戦争とゲーム理論の戦略思考』 日本実業出版社、2005、p13
(注2)伊藤憲一 『国家と戦略』 中央公論社 1985 pp25-26
(注3)同上、p52
(注4)中西寛 「敗戦国の外交戦略――吉田茂の外交とその継承者」 『日米戦略思想史』 [石津、マーレー編]彩流社、2005、p156
(注5)伊藤、前掲書、pp26-33
(注6)H.ニコルソン、『外交』 斎藤眞、深谷満雄訳、 東京大学出版会、pp4-5
(注7)カール・フォン・クラウゼヴィッツ、 『戦争論』 日本クラウゼヴィッツ学会訳、 芙蓉書房出版、p44
(注8)加藤朗 「テロに無知な日本人」 『松下政経塾国際政治講座』 [松下政経塾編]PHP研究所、2004、p166

追伸 現代日本人にとって最高の訳となるクラウゼヴィッツの『戦争論(抄訳)』が出たので、紹介したい。戦争論 レクラム版
戦争論 レクラム版

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
>奥山の定義も軍事戦略の定義と国家戦略の定義のどちらの立場に立っているのかを示さなければ

色々と考えてみたんですが、やっぱり「戦略」というのは「政策」と「軍事」をつなげるところなんですよね。よって、「政策」は常に「戦略」の上にこないとおかしいということになります。
おくやま
2005/06/15 09:12
 本来は「政策」という語の定義を明らかにしてからResを付けたかったのですが、調べる暇がなかったので簡単にコメントいたします。

>「戦略」というのは「政策」と「軍事」をつなげる

というのが、奥山氏のお考えの直線的なのか、私の愚考の並列的なのか、というところに問題があるのかと思います。

 こんな簡単なコメントで、3日もかけてしまい、申し訳ありませんでした。
高橋和司
2005/06/18 05:15
>本来は「政策」という語の定義を明らかにしてからResを付けたかったのですが

なるほど。

>奥山氏のお考えの直線的

これは私の説明が足りませんでした。外交政策(戦略)というものは、私の考えでは基本的に「政策」から並列的に枝分かれするものだと考えております。これについてはまたブログのほうで説明せなあかんですね。よろしくお願いします。
おくやま
2005/06/18 07:47
戦略について検索して、辿りつきました。ギリシア、地中海、都市論、国家論が専門です。
『地中海紀行』
http://homepage3.nifty.com/odyssey/00c8c001.html
『地中海のほとりにて』
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/
leonardo
2009/09/17 15:58

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