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zoom RSS 「安全保障」は安全か

<<   作成日時 : 2005/05/24 05:28   >>

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 最近、シビリアンが防衛問題の研究をする時に、好んで「安全保障の研究」と称する。その方がとげとげしさがないのであろう。従来は防衛問題のことは「国防」と称していた。この二つの単語の違いは何であろうか。英語では安全保障のことを"National Security"と呼び、国防は"National Defense"という。"Defense" とは、純粋に国家の軍事的な保全の意味であり、"Security"という単語には国家の軍事的安全に留まらず、経済活動などにおいて「心配のない状態」を指すニュアンスが込められている。特に日本では大平内閣時代に「総合安全保障」という概念が生まれ、主に非軍事の問題において「心配のない状態」というものを研究することが、安全保障問題の研究に関心を高めるきっかけとなった。軍事知識のあやふやな政治・経済学者が安全保障問題に食い付いたのはこれによるものである。その意味では、シビリアンである国際政治学者が「安全保障」を多用するのは故のあることである。
 さすがに大平内閣の時代から25年以上経過した現在では、軍事アレルギーともいうべき軍事知識のあやふやさは、一部の篤志家に限られるとはいえ改善されてきた。しかし、従来「防衛学会」と呼ばれてきた学会が自らを「安全保障学会」と呼び名を変えたことは、やはり「国防」「防衛」に対していまだに残る無理解が根底にあるのではないか。その安全保障学会で出している「新防衛論集」では、非軍事畑の会員もいるものの、主な内容は軍事研究である。その会員構成も自衛隊・防衛庁関係者から外へ広がることはほとんどない。
 それゆえ、今の国防問題の研究は元自衛官によるものと、軍事オタクによるカタログ的な羅列に終わっているものがほとんどである。前者は組織として自衛隊を動かしてきた、もしくは自衛隊という組織の中で動いてきた体験があるから、それほど現実離れした研究はしないであろう。問題は後者である。彼らはミリタリー趣味の書籍・雑誌からのみその軍事知識を得、そこに書かれていることに対するメディアリテラシーを持たず、自ら得た偏った知識を垂れ流す存在と化すことが多い。また軍事に関する専門的な教育を受けておらず(もちろん、これについては軍事オタクにも同情すべき余地はある。一般大学で全く軍事学を教えない唯一の先進国が現在の日本なのである)、そのような知識をあえて得ようとは思わない。
 それでは「国防」という概念は死んでいるか、というと、決してそのようなことはない。現に日本語で”防衛大学校”と称する組織を英訳すると、"National Defense Academy"で、"National Security 〜"とは呼ばない。平成11年にかや書房から出版された『軍事学入門』は、同じく防衛大学校の有志によって執筆されたものとはい、同年に亜紀書房から出版された『安全保障学入門』(なお、この本は二度の改訂を受けて、現在出版されているものは、『”最新版”安全保障学入門』である)と区別されている。
 ただ前者の本が防衛大学校の有志によって書き下されたこと自体、「国防」という概念が市井の国民から忌避されている証拠なのかもしれない。実際、「国防」や「防衛」に関する書物は、書店では軍事本(主に武器や兵器のカタログ的な本を扱うコーナー)の位置に置かれる。
 そのような環境の中で、一部の努力家である国際政治学者がアメリカの大学に留学するなどして安全保障における軍事の重要性を勉強した結果が今日の、例えば日米関係に関する重大な問題について、軍事問題込みの関係を理解するに至ることになった。そのようにして、安全保障の研究において、従来のような軍事に対する無理解が解消されれば、国防という概念は安全保障にその座を譲ってもかまわないのではないか。

参考文献 『「国防」がなぜ「安全保障」になったのか』佐藤誠三郎
       「外交フォーラム」1999年特別篇 都市出版刊

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