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zoom RSS 『戦略の本質』に関する非本質的なこと

<<   作成日時 : 2005/11/02 12:52   >>

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 今回取り上げる『戦略の本質』という本についてささいなことながら、戦略学の学徒としてどうしてもおろそかにできないことを取り上げたい。それは一般の読者にとってはどうでもよいことかもしれない。しかし学者や学生(主に大学院生を指す)にとっても重要な事柄である。また書誌学を志す人にとっては決しておろそかにしてはならない問題である(ただしこの本が書誌学的な価値があるかどうかという問題にはここでは触れない)。

 それはこの『戦略の本質』は、6人の学者が20年にわたる研究の成果を発表したものでありながら、内容の至る所にあると思われる他人の著作からの引用に注を付していないことと、欧米の同類の書籍なら必ずある索引がこの本にはないことである。ほんの申し訳程度に本の末尾に参考文献が載せられているが、学者の研究があの程度の数の本からできているとは絶対に信じられない。向こうの類書なら見ていて目が回るほどの参考文献が並べられるのが普通であるのに、ということである。
 「『では』の守」(注)になって申し訳ないが、戦略学の分野で欧米に少しでも近づきたいという意図を持って書かれたということで厳しい評価を許してもらいたい。また嫌みな表現になるが、この本の著者である6人の学者にとって、この本が自分の学問的業績になろうがならなかろうがもはや大して重要な問題ではないに違いない。
 その点をついて出版社サイド(日本経済新聞社)が一般のビジネス書として売り出したいという強い意図を持って発売したからこうなったのではないか。しかしそれゆえにこの本の学術的価値を下げてしまっている。

 本の詳しい内容はこちらのブログやamazon.co.jp(文末参照)で見てもらいたいとして、「戦略論・入門」としては、わずらわしい注や膨大な参考文献の列挙は不要であると著者たち(もしくは出版社サイド)は考えたのか。確かに、この本が一般のサラリーマン向けビジネス書であればその通りであろう。しかし、この本を読み解くことができる人というのは、学生・学者にしても、ビジネスマン・一般の社会人にしても、立場を超えて相当の戦史に関する知識を持っていなければならないはずだ。そのような者にとっては戦史の先例を各著者がどう料理するかが興味の対象で、ほかの戦略家たちがどのように各戦史における局面を分析しているかとの比較を見たいわけだから、英語ないしほかの西洋語ができるかどうかは別にして、和洋の参考文献を充実してほしいだろう。逆に戦史に不案内ながらビジネスにおける「戦略」を勉強したくてこの本を買った人にとっては、この本1冊では戦史に関する解説も足らないので、戦略学をビジネスに応用したくても、どう応用したらいいのか消化不良に陥る可能性が高いであるが故に、戦史や戦略の解説書が必要になるに違いない。

 そういうわけで私のように学生時代に中途半端に国際政治学や戦略論を学んだ者にとっては改めて学問を深めるために格好のケーススタディーを提供してくれるという意味で高い評価を与えられるが、先述のように詳しい注や参考文献の紹介、それに最低限で構わないから事例と人名別の索引がないのが残念である。しかし私より戦史・戦略に詳しい者にとっては食い足りない印象を与えるであろうし、逆に「軍事」を「ヲタク」として毛嫌いするような戦略の素人は完全に消化不良に陥るに違いない。そのような中途半端さを補足するために、やはり注と参考文献の充実を切に願うところである。

注)「『では』の守(ではのかみ)」:日本の事柄を批判する際に、(常に)「〜の国では…、しかるに日本では....」という表現を用いる人をさして言う。通常は前者には欧米の国々が入るが、最近の傾向としては、日本の右傾化(私は右傾化ではなく、正常化だと思っていますが)を批判するときに、「アジア諸国では(実は中国と韓国を指すにすぎない)」という言い回しをする人も増えている。

戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ
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【リーダーは歴史から学ぶ】戦略の本質
旧日本軍はなぜ負けたのか。海外では圧倒的に不利な状況から逆転した戦争はいくらでもある。現代において、あの失敗を繰り返さないと言えるだろうか。 ...続きを見る
ぱふぅ家のサイバー小物
2009/03/03 20:43

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内 容 ニックネーム/日時
トラックバックありがとうございます。「ではの守」の指摘は面白かったです。参考になりました。
おくやま
2005/11/03 02:35

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