高橋和司 戦略 Blog

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zoom RSS 「地政学」をさかのぼる

<<   作成日時 : 2005/05/22 14:41   >>

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 地政学のエッセンスにふれたのは、もう20年くらい前のことである。その時は地政学上、あまりに有名な格言である「ハートランドを支配するものは(中略)世界を制する」と、ハートランド・リムランドという単語が大した説明もなく書かれていた。
 次に地政学的("geopolitical")な見識に出会ったのは、『海の政治学』(中公新書・曽村保信著)という一冊の本である。この本は私をシーパワー論に目を開かせた書といえよう。なぜシーパワー論が「地政学的」なのかというと、地政学の泰斗、イギリスLSEの地理学教授であるH・J・マッキンダーが世界をランドパワーとシーパワーに分けたことに由来する。伝統的な地政学者は多かれ少なかれ、この分類法を踏襲している。
 先の本の著者である曽村保信氏は本職は外交史家であるが、マッキンダーによる地政学の聖典ともいわれる『デモクラシーの理想と現実(原書房)』を訳し、自らそのエッセンスとほかの地政学者の学説を紹介して『地政学入門(中公新書 721)』を著している。
 ただし、シーパワーという単語を大々的に広めたのは、そもそもは地理学者(もしくは地政学者)ではなく、A・T・マハンというアメリカ海軍大学校校長の著した『海上権力史論(北村謙一役・原書房刊)』である。こちらの本はシーパワーを要素分析し、その要素を備えた国家が世界に覇を唱えることができる、という一種の予言のような本である。シーパワーの分析を終えてからはひたすら17世紀〜18世紀の海軍を交えた戦争の分析に終始している。マハンないし彼の著したこの本についてはさまざまな逸話が語られており、その中で有名なものは、この本が公刊されてすぐに、ドイツ帝国海軍のティルピッツ提督が、すべての海軍艦船にこの本のドイツ語訳を手配しておく必要があると言い放ったとか、若き日の秋山真之がこの本を読んで感動して師事し、後にマハンを日本の海軍大学に招聘(しょうへい)できないものか可能性を探った、さらには当のアメリカ合衆国自体でカラープランという世界の列強を敵に回した時の作戦計画(このうちの一つがオレンジプランこと対日作戦である)を練る際に大いに参考にした、などの話が尽きない。
 マハンはシーパワーの永遠なる優位を説いた。しかしマッキンダーは19世紀末に鉄道網が世界を覆い尽くし、その輸送力でかつてのシーパワーの優位は失われつつあるのではないか、というシーパワーに依拠する祖国への警鐘として先の著作を著したわけである。
 戦間期のドイツの惨状は地政学史にハウスホーファーを生み出した。ハウスホーファーの理論は主としてラッツェルやチェーレンの国家有機体理論を受け継いだもので、これは独立した勢力はその大きさによって自らの勢力範囲を獲得し、自給自足の権利を得る、というものである。第一次世界大戦の敗北で国際社会から締め出されたドイツ人の俗耳に入りやすい理論である。ハウスホーファーがミュンヘンで主催した地政学研究所でおよそ20年間(1924〜1944)にわたって発行された『地政学雑誌』では、特に後期にはドイツのナショナリズムが前面に出たが、初期にはカール・シュミットなどの有名な政治学者も寄稿し、それなりに地政学を科学として扱おうという態度が見られた。この雑誌は東大図書館ほか2・3の図書館に置いてあるようで、戦前・戦中には日本でも地政学らしきものが研究されていたことを物語っている。
 しかし、第2次世界大戦の終結でナチスとつながっていると見られた(実際にはむしろ要警戒団体としてマークされていた)地政学研究所は復活を許されず、日本同様ドイツでも地政学の研究は断絶を見た。むしろ戦後地政学の研究が盛んになったのは、ナチスドイツなどの資料を押収したアメリカと、伝統を誇るイギリスであるが、後者は経済的困窮などから、頭脳が前者に流出するということが起こったため、一時的に研究の質が下がった。とにかく、第2次大戦直後の時期はさまざまな要因、特に(その認識が遅れたとはいえ)ソ連の脅威が迫ったため、アメリカでは、マッキンダー流の地政学とともにハウスホーファーの地政学の研究が盛んになった。
 アメリカの地政学の始祖はN・J・スパイクマンであるとされている。マハンはどうしたという意見もあろうが、後者はあくまで海軍戦略家とみなされているため、地政学者とは扱われないのである。スパイクマンは主に大戦中に活躍した地政学者で、ハートランド理論を見つめ直して、西半球、すなわち南北アメリカ大陸の防衛を主に研究した。彼によると、西半球の東側からの攻勢には脆弱(ぜいじゃく)性があると判断し、それなら逆に打って出ようという考えをまとめた。それがリムランド理論で、ハートランドに接するユーラシア大陸の縁側部分─これをリムランドと称する─にアメリカ合衆国の勢力範囲を広げて逆にハートランドを包囲しようというものであり、それに従って戦後は速やかに日英と同盟を結ぶべきだとの政策提言をまとめた。
 第2次世界大戦後は、マッキンダー流のランドパワー・シーパワー理論と、ハウスホーファー流の勢力範囲理論を統合した、アメリカ流地政学というのが発達した。これが国家戦略に応用されることが多々あり、キッシンジャーやブレジンスキーなどの著名な戦略家も好んで"geopolitical"という単語を自らの発言や著書に使っている。
 日本では、特に年長者になればなるほど(といっても皆様すでに高齢者のカテゴリーに属するが)ドイツの影響が強く、戦略でいえばクラウゼヴィッツ、地政学でいえばハウスホーファーのアウタルキー(自給自足)理論という傾向が強いが、現役研究者の戦略研究はすべてアメリカの影響下にあり、また地政学については第2次世界大戦の敗北とともに真摯な研究も消滅したといえよう。曽村保信氏が『地政学入門』で世界の地政学について道筋をつけても、それを参考にしたと思われる後継研究が「従来、ともすれば誤解されがちな観念論でも宿命論」に陥ったり、アメリカ合衆国で盛んに研究されていることから、アメリカの陰謀にくみしていると誤解されたりするのは非常に残念なことである。

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